当院のご案内
前立腺がん治療 PSMA
はじめに
「去勢抵抗性前立腺がん」について
前立腺がんは、男性ホルモンによって引き起こされると考えられます。
日本においては、右記グラフにもあるように前立腺がんは20年あまり多く見られる疾患ではありませんでした。しかし、2000年以降から右肩上がりに増加しており、あと数年で男性のがん罹患者数の1位になると言われています。
日本人のがんで多いのは、肺がん、大腸がん、胃がん(近年では女性の膵臓がんが3位になった)で、この3種が順位を変えながらTOP3を占めていました。しかし、この前立腺がんは海外の動向から見ても確かに国内で患者数が増えると考えられます。
2019年の男性のがん罹患数予側
部位 | 患者数 |
---|---|
大腸がん | 89,100 |
胃がん | 84,200 |
肺がん | 82,700 |
前立腺がん | 78,500 |
なぜ増加しているのか
① 高齢化による増加
前立腺がんは80歳以上では半数以上に潜在性の前立腺がんがあると言われている疾患です。従って超高齢化社会の日本に前立腺がんの患者が増えているのです。
② 食生活の欧米化
前立腺がんはアメリカで男性の罹患者数が1位、死亡数は2位と言われています。これには食生活、特に動物性脂肪が影響していると考えられています。食生活の欧米化は大腸がんや乳がんにも影響していています。
③ 診断技術の向上
医療の進歩、診断技術の向上により超音波検査や内診(直腸内)で見つからなかったものが、PSAの採血や精度の感度の高いMRI等の画像診断機器により発見されることが増えています。前立腺がんは50才から急激に発見率が増えるとも言われているので50才を過ぎたらかならず前立腺のMRIとPSAを検診に追加するなどして受けるようにしましょう。
前立腺がんの発見に有効な検査と標準治療法
前立腺がんの発見に有効な検査
- ・PSA検査
- ・経直腸的超音波検査
- ・骨盤MRI
前立腺がん発覚後
- ・針生検(確定診断)
- ・骨シンチグラフィー(病期診断)
前立腺がんの標準的な治療
- ・ホルモン療法
- ・放射線治療
- ・前立腺全摘除術
最新医療 ルテシウム(Lu-177) PSMA治療について
標準的治療に抵抗性のある前立腺がん、それが「去勢抵抗性前立腺がん」
前立腺がんには先述しているようにPSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーがあり、この数値を一つの目安にして標準治療などの治療効果の判定を行っています。しかし、上記のような標準治療に抵抗性の腫瘍があります。そして、遠隔転移が起きてくるケースを後に説明する「去勢抵抗性前立腺がん」と定義しています。
標準治療を受けたにも関わらず転移、進行した前立腺得定期抗原(PSMA)陽性の去勢抵抗性前立腺がんと言われる患者に対して、国外では新しい治療法が使われています。それがルテチウム-177 PSMA-617(以下LuPSMAとします)と呼ばれる新規標的放射線療法です。
治療の奏功が期待できるこのLuPSMA治療法ですが、日本ではまだ未承認の治療薬です。
当院では非常に有効な手段だと考えています。
「ルテシウム(Lu-177) PSMA治療」とは
LuPSMA治療について説明します。LuPSMAは前立腺がん細胞に多く発現している受容体である前立腺特異的膜抗原(PSMA)を選択的に標的とする低分子リガンドにルテチウム−177という放射性薬剤(payload)を結合させたものです。この仕組みからLuPSMAは、有害な高線量の放射線を、がんの転移部位のみに正確に照射させることができます。
もっと簡単に説明すると、前立腺がんで出てくる特殊なたんぱく質のPSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)に放射性物質の「ルテシウム(Lutetium)」を結合させることで、PSMAを発現している細胞=がん細胞だけを狙い撃ちすることができる治療が「ルテシウム(Lu-177) PSMA治療」なのです。
さらにこのLuPSMAの優れた点は、LuPSMAが低レベルのガンマ線を放出しているので、これを利用して核医学画像診断による視覚化が可能になっている点と言えます。PSAの値に頼る治療効果判定は腫瘍崩壊症候群(治療後に腫瘍が崩壊して一時的に腫瘍マーカーが上昇したりすること)などの影響を受けると即時に診断はできません。このようにLuPSMAでは医師が画像診断によって、リアルにがんの状態を診ることができるのです。治療しながら病気の状態を常に把握/検査できることや、治療の効果を随時判断することができる点がメリットと言えます。
LuPSMA治療の実際
LuPSMA治療は静脈に薬剤を注射して、がん細胞に集まった薬剤が体内で放射線を出すことによって治療をする内用療法です。実際の治療は点滴のルートから薬剤を投与するだけなので体への侵襲が少なく体力のない患者にも比較的受けやすい療法と言えます。
LuPSMA治療の副作用について
- ・唾液が出にくくなる
- ・唾液腺の近く(のどの両脇あたり)が腫れる、熱を持つ
などの症状が現れることもあります。
これは、治療の副作用として、薬剤が前立腺だけでなく唾液腺にも集積する性質があるためですが、症状の度合いには個人差があるといえます。
LuPSMA治療の流れ
まずはセカンドオピニオン
当院ではこれまでにドイツ・ビュルツブルクにある大学病院へ紹介をし、治療を受けていただいた実績があります。日本人医師が現地のドクターと連携して治療方針や診療を手伝ってくれます。
当院を受診する
「去勢抵抗性前立腺がん」の可能性がある方は、まず当院のオピニオンを受診して下さい。
現地での治療
1日目(外来)
◆ 問診・診察
問診票に記入をし、現地ドクターの診察を受けます。
◆ Ga-PET検査
Lu-177 PSMAと性質のよく似た放射性同位元素を注射してPET検査を行います。この検査によって薬剤が病変に集積することが確認できれば、Lu-177 PSMA治療が実際に適応となります。
※適応が確認できない場合には、治療が実施不可となる可能性がございます。
2日目(入院)
◆ 腎シンチグラム
治療当日の腎機能の状態を確認します。この結果によって、最終的な治療薬の投与量が決められます。腎機能の状態が良くない場合には、体内の薬剤が排泄されない(放射能が体内に堆積してしまう)ため、投与量を控えなければいけません。
◆ Lu-177 PSMA投与
実際の治療は注射で薬剤を投与するだけです。所要時間は約30分程度です。投与後は入院病棟内(管理区域)で過ごし、定刻になるとベッドに横になるよう指示があり、投与後の状態をチェックします。
3日目(入院)
◆ PET検査
薬剤投与後24時間後に検査をし、画像で治療後の状態をチェックします。
4日目(退院)
◆ PET検査
薬剤投与後48時間後の検査を受け、退院となります。
治療後のフォロー体制
帰国後は4週間に1度のペースでPSAの値を測定しながら経過観察をします。
また、8週間後に同様の治療を行います。
治療レポート
ここでは、実際にドイツでの治療を行った患者さんのスケジュールを例に、レポートをご紹介致します。今後ドイツでのPSMA治療をご検討されている方の参考になれば幸いです。
※以下のスケジュールはあくまでも一例です。フライトスケジュール、現地病院の治療コーディネートの状況、患者の病状/体調により変更があります。また、患者1人1人の状態に合わせた治療となるため、追加の検査や薬の処方などが考えられます。
■ 1日目
● 11:15
ANA便で羽田空港→フランクフルト空港へ。(飛行時間 約11時間)
● 16:25
フランクフルト空港到着。
フランクフルト空港からリムジンタクシーでホテルへ移動。(車で約90分)
フランクフルトからビュルツブルクへはICE(日本で言う新幹線)で行くことができます。(所要時間:約80分)
自動券売機または有人のカウンターにてチケットを購入し、ホームの番号を確認し、乗車します。(日本のような改札はありません。)
■ 2日目
● 8:40
タクシーでホテルからWurzburg大学病院へ。(所要時間 Drint Hotel:約15分、Maritim Hotel:約10分)
● 9:00
来院。問診や各検査および治療の説明・同意書へのサインなど。ドイツは押印ではなく署名の文化。サインする書類がたくさんあります。
● 12:00
Ga-68 PSMA PET検査
・・・注射をしてから、薬剤が体内に行き渡るまで90分程安静にする必要があるため、ベッドで横になります。検査自体は30分程度で終了します。
● 午後
フリー
・・・個人差がありますが、治療後には副作用で体調が優れない場合も考えられるため、患者さんが市内観光をするのにベストなタイミングです。
■ 3日目
● 7:30
タクシーでホテルからWurzburg大学病院へ。
● 8:00
腎シンチグラム(所要時間:30分)
● 11:00
入院病棟へ移動。
● 12:00
Lu-177 PSMA administration(PSMA投与)
・・・点滴によるPSMA治療薬の投与が始まります。このタイミングからご家族(特に小さなお子さんや妊婦)との面会は被曝をするので禁止となります。
● 16:00
SPECT CT(4時間後)
入院までは病院で付き添い。
午後からは2日間面会不可のため自由時間となります。
ビュルツブルク周辺の観光などが可能です。
例) 病院内のカフェテリアで昼食病院からタクシーでレジデンツ観光へ
■ 4日目
● 12:00
SPECT CT(24時間後)
終日フリー。1-2時間で行ける観光地(フランクフルト、ローテンブルク、ニュルンベルクなど)へ、少し足を伸ばしてミュンヘンなど、お出掛けするのはいかがでしょうか?
※12:00
SPECT CT(48時間後)・・・この検査をスキップして、代わりに翌日に外来で72時間後の検査となるケースもあります。
● 13:00
支払い・退院
● 午後
体調が良ければ、ビュルツブルク観光などが可能です。
■ 5日目
● 11:30
タクシーでホテルからWurzburg大学病院へ。
● 12:00
SPECT CT(72時間後)
● 午後
フリー
■ 6日目
予備日。特に治療スケジュールに変更がなければ終日フリーとなります。
● 7:30
チェックアウト
● 8:00
リムジンタクシーのお迎えで空港へ
● 12:10
ANA便でフランクフルト空港→羽田空港へ。(飛行時間 約11時間)
● 6:35
羽田空港 到着
帰宅
ドイツ・ビュルツブルクについて
ロマンチック街道の北の起点であるビュルツブルク。首都フランクフルトからICE(新幹線)で約1時間20分の街です。
フランケンワイン(白ワイン、ボックスボイテルという丸みのあるボトルが特徴)の産地で知られ、世界遺産のレジデンツがある歴史のある街です。教会都市としての歴史も古く、それぞれに違った特徴を持つ教会や高台にあるマリエンベルク要塞から見渡すドイツらしい街並みが魅力です。
春には旬のアスパラガス、初夏には生い茂るブドウの段々畑、秋には紅葉、冬は何と言っても本場のクリスマスマーケットが楽しめます。
ビュルツブルクは1日あれば徒歩で十分に観光することができます。治療で4回程ドイツに来る予定となる方は、四季折々の表情を楽しむことができます。
レジデンツ
ノイミュンスター教会
マリエンベルク要塞